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転載:ブラックアウト(巨大停電)発生の仕組み(その2)

  前号、その1からご覧ください。





> (2)ブラックアウト(巨大停電)発生の仕組み



> 電気は基本的に貯めておく事が出来ない。そのため、その時々の需要に

> 併せて発電を行う。しかし、需要が発電能力を上回ると次の事が起こる。



>  1.送変電所にある設備に無理な負担が掛かり、放置するとブレーカー

> (遮断器)や変圧器が損傷する。特にブレーカーが損傷すると、いざと

> いうときに事故を切り離す事が出来ずに、影響が広く拡がる。ブレーカー

> の損傷が他の送変電所に次々に広がり、全体がドミノ現象のように破壊

> される仕組みだ。



ここで書かれていることには大きな錯誤があります。電力不足になると

ブレーカーが壊れてしまうと取れるような文面ですが、そのようなこと

はありません。



ブレーカーは過負荷がかかったことによって壊れるということはありま

せん。過負荷がかかった時に発電所等の設備を破壊しないためにあるも

のです。もちろん故障して正しく動作しないということはあり得る訳で

すが、二重三重に回路に冗長性を持たせ、安全を確保しています。



ブレーカーは過電流が流れること(過負荷)によってトリップがかかり、

回路を遮断する装置であるということをお忘れのようです。



ブレーカーは身近なところにもあります。ご家庭の配電盤の中に黒いス

イッチが入っていると思いますが、これがブレーカーです。過電流が流

れるとスイッチが下側に落ちて回路が切れ、個別回路のブレーカーが切

れなかった場合は主回路の大きなブレーカーが切れるという二段構えに

なっています。さらに漏電遮断機もついており、本来電気が流れるとこ

ろ以外に電気が流れてしまった場合にも回路が遮断されるようになって

います。



>  2.発電所と電気を使用する箇所(需要家)の間は、送配電線という

> 「軸」で直結されていると考えて良い。そのため、需要家の負荷が発電

> 能力を超えると、発電所に強力なブレーキが掛かる。そして、発電所の

> タービンなどの回転数が低下すると、タービン各部が機械的な共振を起

> こして、大破損を起こす危険がある。カタストローフである。



確かにこういうことが起き、過負荷によって発電機の回転数が落ちてき

ます。しかしながら、ここで書かれているような過程でブラックアウト

が起きる訳ではありません。



>  3.タービンの破損は、最悪の場合には損傷した羽根が発電設備を突

> き抜け、火災などの大事故に直結するため、絶対に避けなければならな

> い。そのため電力需給に関わらず、ある限度で必ず発電を停止させる。



回転数がおちて周波数が下降すると不足周波数継電器 (UFR) が動作し、

壊れる前に発電機を止めてしまいます。発電機が止まりますから当然電

力供給は止まり、ブラックアウトに繋がる可能性があります。



>  4.そして、その分を停電させなければ、同時に他の発電所でも全く

> 同じ事が起こる。



> そうして発電停止と停電の連鎖が始まり、何らかの所でバランスを取っ

> てくい止めない限り、その悪循環は続き、最終的には全ての発電、電力

> 供給が停止する。



> 以上が、電力需要が発電能力を上回ることによる、ブラックアウト(巨

> 大停電)発生の仕組みである。(注3.参照)



ブラックアウトが発生する原因はこれだけではありませんし、そんなに

単純なものではありません。



例えば、1987年7月23日午後1時頃に首都圏で発生した大停電(ブラック

アウト)ですが、この時私は打ち合せで東京電力福島第二原子力発電所

におりました。前述のブラックアウト発生のメカニズムの通りなら福島

第二の発電機も止まっていたはずですが、4基ともフル稼働で、440万kW

何事もなかったかのように発電し続けていました。



現地の東電社員もブラックアウトの詳細をNHKのニュースで知ったくらい

で、打ち合せの始まるのを待っていたら、面談相手の東電社員の皆さん

が血相変えて廊下を走っていくので後ろからついていったらNHKのニュー

スをやっていて、そこで我々もブラックアウトを知った次第です。



それでは、1987年7月23日のブラックアウトはどのようにして発生したか、

その過程をウィキペディアから引用します。





1987年7月23日首都圏大規模停電とは、1987年7月23日に日本で発生した

大規模な停電。東京他6都県で、280万戸(供給支障電力816.8万kW)が電力

供給停止となった。



猛暑のため、昼休み明けで急速に電力需要が伸びていった。需要の伸び

は1分当たり40万kWであったという。



電力需要の伸びに伴って無効電力も急速に伸び、電力会社では変電所に

設置されている電力用コンデンサを次々と投入し無効電力の抑制を行っ

た。

午後1時07分には電力用コンデンサの全量を投入したが、無効電力の伸び

に追いつかず基幹系統の変電所の母線電圧が低下し(50万V母線で37万~

39万Vであったという)、UVR(不足電圧リレー)の動作により1987年7月

23日の午後1時19分頃に、基幹系の変電所が停電となり配下の変電所が停

電した。(関東中央部:豊島、京北、北東京、多摩、上尾、池上変電所・

関東南西部:笹目、北相模、新秦野、新富士変電所で停電が発生)



また、基幹系変電所のリレー動作で負荷が急減したため発電機の回転速

度が増加し周波数上昇が発生したため、川崎火力6号機や鹿島火力4号機

と6号機の発電機OFR(周波数上昇リレー)が動作し電源が脱落した。



停電の復旧は、関東中央部は約30分で復旧したが、関東南西部は完全復

旧までに3時間21分を要した。 一方、脱落した電源は、鹿島6号機は停電

発生後約1時間20分、鹿島4号機は約1時間半、川崎6号機は約1時間50分で

再並列した。



http://ja.wikipedia.org/wiki/1987年7月23日首都圏大停電





この説明を読んだだけではわからないことだらけだと思いますので、少

々長くなりますが、解説します。



まず、「無効電力とは何か」です。



電力とは電圧×電流であると、中学校の時に習ったと思います。しかし

ながらこれは電流が直流の時の話であって、交流の場合このようにはな

りません。



交流の場合、電圧も電流も正弦波で変化しています。この正弦波の変化

が同時に進行していれば、直流と同じように電力(単位はW[ワット])は

電圧×電流で表すことができます。



ところが、電気製品が負荷としてあると、電圧と電流の正弦波の変化は

必ずずれてきます。例えば電圧の変化に対して電流の変化が遅れるよう

になり、極端な場合、電圧が最大値の時に電流がゼロになってしまうこ

とがあります。



すなわち、単純に電圧×電流をかけただけの電力が使えないということ

です。したがって交流の場合電力を表すのに、電圧×電流にそれそれの

正弦波の変化のずれの値を表わす「力率」をかけます。



すなわち交流電力は電圧×電流×力率で表され、これは実際に電気製品

を動かすので「有効電力」と言います。単純に電圧×電流で計算される

数値から有効電力の数値を引き算した電力は何も仕事をしませんから、

これを「無効電力」と言います。



また交流の場合、単純に電圧×電流をかけただけの電力は見た目の電力

ですから「皮相電力」と呼び、単位はVA(ボルトアンペア)です。



力率がどれくらいになるのか、実際には流れている電流と電圧を測定し

てみないと分からないのですが、パソコンで6.3から8.0ほどになります。

最近のパソコンはもうちょっと力率が良いようですが、一般的にモーター

のようなコイルを含んだ電気製品では力率が悪くなり、6.0位になります。



実際の電力系統で力率が大きくなり無効電力が大きくなると、いくら発

電しても実際に使われる有効電力は小さくなり、電力不足に拍車をかけ

ます。



そこで、そのようなことを防ぐために、電気回路にコンデンサーを接続

します。モーターで使われているようなコイルは正弦波の変化を遅らせ

る方向に働きますが、コンデンサーは進める方向に働きます。



すなわち、回路にコンデンサーを接続することによって無効電力を小さ

くし、発電した電力が有効に使えるようになります。このコンデンサー

のことを電力用コンデンサーまたは進相コンデンサーと言います。



これでおわかりのように、ウィキペディアの説明によれば、電力需要の

急増とともに電圧と電流の位相差(ずれ)が大きくなり、その差を小さ

くするために電力用コンデンサーを接続していったのですが、それでも

追いつかなくなって過負荷となり、母線電圧が落ちしまいました。



この時の原因の一つとして、当時一気に普及したインバーターエアコン

が挙げられており、インバーターの特性として電圧が低下しても冷房機

能を落とさないように制御するため、電圧が低下した分電流が増加しさ

らに電圧低下を招くという悪循環があったのではないかと推測されてい

ます。また、モーターが使われていますから、力率を悪化させる方向に

作用していました。



電圧の変動は±10%までは許容されますが、50万V母線で37万~39万Vまで

落ちたということは、最大25%電圧が落ちたということです。これはもう

異常事態ですから、不足電圧継電器(リレー)UVRが作動し、基幹系の変

電所が次々と停止し、停電となりました。



そうなると一気に負荷がなくなり、今度は発電所の発電機の回転数が上

がってしまいます。発電機の回転数が落ちるのも放置すれば破壊に繋が

りますが、回転数が上がっても危険です。



そこで、電力消費地に近かった川崎火力6号機や鹿島火力4号機と6号機の

発電機は周波数上昇継電器OFRが作動し、発電機が止まってしまいました。

すなわち、過負荷で直接発電機が止まったのではなく、急に負荷がなく

なって止まったのです。



こうして電力供給は連鎖的に停止し、ブラックアウトとなったのです。

いずれにせよ、電力消費予測を誤ったことによりブラックアウトに繋が

りました。



幸い、福島の原発は関東地方を囲うようにある送電線網の外側にあり、

負荷変動は原発まで遡及しませんでした。したがって、何事もなかった

ように動いていたのです。



この停電では、繰り返しますが最長3時間21分で復旧しています。すなわ

ち、負荷変動によって停止した発電機が3機で済んだため、電力消費のピ

ークを過ぎたこともあり、比較的短時間に復旧することが可能でした。

加えて、今から24年前の時点で日本の送電線網は最近の流行り言葉の

「スマートグリッド」と呼べるレベルにあったことも、早期復旧に寄与

しました。



因みに、1999年10月に関西でも京都市内を中心に大規模停電が起きてい

て、これも午後1時過ぎだったのですが、京都の西京極変電所での作業

時に操作を誤って急激な負荷変動を生み、連鎖的に変電所の停止となり、

さらに原電敦賀原発の発電機まで止めてしまいました。



この時も、私西京極変電所のすぐ近くの京都市の隣の市にいたのですが、

京都駅はJRを除いて真っ暗になり、大騒ぎになりました。この時の停電

は夕方までには復旧しましたが、原電敦賀の原発の再起動には3日ぐらい

かかったようです。



(その3へ続く)


by toranokodomo | 2011-12-17 17:13 | 指定なし  

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