転載:日本の電力 巨大危機への私見(その1)
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日本の電力 巨大危機への私見
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荒木 純夫
日本の電力 巨大危機 小田原 三茶
このような記事が投稿され、非常に鋭いことを指摘されているのですが、
説明不足な部分と誤解を与えかねない記述が散見されますので、コメン
トさせていただきます。
> 我が国の電力事情は危機的症状にある。福島第一原発の大事故は痛恨の
> 事態であるが、電気料金の高騰と供給不安が予想されるなか企業の国外
> 脱出も雪崩現象となっている。雇用崩壊につながりかねない状態だ。
>
> 今後、定期的に電力業界が内包する諸問題と、技術的解説も含めて「頂
> 門の一針」に寄稿させていただきたい。まずは喫緊の課題。急いで手を
> 打たないと空前の被害が東北を襲う可能性。
これはご指摘の通りです。現在電力供給が最も逼迫しているのが東北電
力です。東京電力は福島第一原子力発電所(!F)がひどいことになって
いるので大変である印象を受けますが、
柏崎刈羽原子力発電所がまだ稼働していること、広野火力、鹿島火力
(鹿島共同火力、住友金属鹿島火力を含む)、勿来火力(東電&東北電
出資の常磐共同火力)といった、津波被害を受けた火力発電所が7月の需
要最多期までに有り得ない早さで復旧したことが大きく寄与し、なんと
か夏場を乗り切ることができるとともに、東北電力へ電力を提供してい
ます。
> (1) 東北が危ない~東北地方の構造的な危機と能代火力発電所の
> 事故
>
> 東日本大震災や今年7月に起きた津波災害によって、東北電力の発電設備
> は甚大な被害を受けている。 東北電力は復旧を急いでいるが、それら
> 被害を免れた主に日本海側の火力発電所が、東北電力管内の電力供給を
> やっと支えている状況だ。
>
> このさなか、危惧していた事が起こってしまった。
>
> 12月9日(金)14時1分頃、能代火力発電所1号機(定格電気出力60 万
> kW)が通常運転中のところで、自動停止した。幸い設備の損傷はほとん
> ど無かったようで、点検後に再起動を行ってやっと巨大停電を免れた。
> (注1.参照)
東北電力の発表資料によると、計画停電が終了して実運転に移ったばか
りでのトラブルだったようです。燃料供給システムである微粉炭機の1
台について「予備機としての起動操作を行っていたところ、給炭量のア
ンバランスが発生したことから停止」ということですから、起動手順を
間違えたか設定値を間違えたのでしょう。
安定して動いている時は良いのですが、こういう停止状態から起動する
時には結構あるミスなのです。私自身、タイのガスプラントで、試運転
から実運転へ生産量を上げている途中でプログラマブル・ロジック・コ
ントローラーの設定でミスをし、40%まで来たところまで緊急停止をかけ
てしまったことがあります。まあ、操作ミスがあった時に安全に止まる
ということを実証できた訳ですが。。。この時は直ちに再起動して、12
時間の時間的損失で済みました。
ですから、能代火力発電所1号機についてもどこも破損した訳ではない
ので、直ちに再稼働できたと思います。もっともそこから100%運転まで
に時間がかる訳です。
なお、ここで停止した能代火力発電所1号機が需要のピーク時までに稼
働し、巨大停電を免れたかと取れるように書かれていますが、それは違
います。この後の小田原様の記述と矛盾しています。
http://www.tohoku-epco.co.jp/news/normal/1183643_1049.html
> しかし、一旦止まった火力発電所が、数時間で定格電気出力まで復帰す
> るのは難しい。
>
> この時14時から当日のピークであった17時30分までの3時間半には点検含
> めて、到底間に合うようなものではなかった。
最短でも定格出力まで24時間かかるでしょう。もっとかかるかもしれま
せん。一番やっかいなのは停止してしまった蒸気タービンの軸がどうなっ
ているかで、停止後もモーターでゆっくり回転させています。
これをしないと熱で柔らかくなった軸が自重で曲がってしまいます。そ
うすると再稼働した時に振動が発生し、最悪の場合、タービンが破壊し
ます。緊急停止後タービンの軸はモーターで回転していたか等、タービ
ンの健全性確認にかなり時間がかかると思います。
> つまり、そのままであれば12月9日(金)17時30分にあった「残り余裕代」
> 54 万kW分、「たかだか火力発電所1機の不具合」で全て失われた訳だ。
>
> そして、その「残り余裕代」がなければ「東北地方一帯が巨大停電に陥
> る」可能性が非常に高かったことは、あまりに知られていない。にわか
> 勉強の新聞記者、放送局記者は電力の発送電、変電の仕組みコンピュー
> タ制御の仕組みに無知であるし、勉強しようとしない。(注2.参照)
これは東北電力だけのことではありません。例えば、東日本震災と関係
なかった関西電力ですが、2011年8月9日は電力供給量2,950万kWに対して
電力消費量は2,800万kWまで迫っていました。
すなわち、供給電力の95%まで迫っていました。注2で書かれている東北
電力のデータでは96%ですから、似たようなものだったのです。すなわち、
関西地方もブラックアウト寸前までいっていました。下記のページで
2011年8月を表示して確認してみてください。
http://setsuden.yahoo.co.jp/kansai/use/
震災で発電所が破壊された訳でもないのに、なぜこんなことになったの
か。理由は簡単です。原子力発電所のほとんどがストップしたからです。
以下のページのグラフを見てください。関西電力の電力供給量のうち、
昨年平成22年3月の実績で実に48%が原子力です。
http://www1.kepco.co.jp/gensi/fukui/index.html
東日本大震災の後、特に菅直人が5月に中部電力浜岡原子力発電所の停止
をさせてから、日本中の原発が定期検査後再稼働できなくなり、現在ど
んどん止まっています。
関西電力の場合、2011年12月14日時点で稼働している原発は高浜発電所3
号機と大飯発電所2号機の2か所のみであり、総発電量976.8万KWのうち
212.9万kW、しかも高浜3号機は107%、大飯2号機は102%という、非常に
設備に負担をかけた運転をして総発電量の21.8%しか発電していません。
以下の「原子力発電所の運転状況」のページを見て確認してください。
http://www1.kepco.co.jp/gensi/monitor/live_unten/u_real.html
最上部の「定期点検中」の日付を見れば、定期検査で停止している発電
機が再稼働できず、どんどん止まっているのが分かります。
前述の2011年8月9日時点で稼働していた発電機は前述の2基に加えて高浜
2号機だけでしたから、82.6万kWが加わり原発の発電量は全て100%運転と
して287.1万kWしか供給していません。すなわち原発の総発電量の29.4%
しか発電しておらず。関電の最大供給量の33.9%が失われていました。
夏のピーク時に3分の1もの供給電力が失われたとしたらどうなるか、だ
れだってわかるでしょう。実際に起きましたが、このぎりぎりの状況で
火力発電所等がトラブルで停止したらどうなるか、原発を直ちに停止す
ることの非現実性が、これでわかると思います。
(その2へ続く)
by toranokodomo | 2011-12-17 17:12 | 指定なし